理事長の豊岡志保です。
リハビリテーション科医師として脳卒中後遺症や高齢の患者さんの診察をしていると、認知症は個別性がある、1日の中でも変わる、場所によっても変わることを実感しています。
九月は「認知症月間」です。全国でいろいろな取り組みが行われ、認知症について考えるきっかけが増える時期です。私も、この時期は改めて「認知症とは何だろう」と振り返っています。
認知症というと、「全部がわからなくなってしまう病気」と思われる方が多いかもしれません。でも、実際はそうではありません。認知症の方の記憶や理解は“マーブル模様”のように、分かることと分からないことが入り混じっているのです。昨日のことは忘れてしまっても、若い頃の思い出はしっかり残っていたり。ある時は家族の顔を覚えているのに、別の日には名前が出てこなかったり。分かったり、分からなかったり、その揺れがあるのが特徴です。
私自身も、ときどき「あれ、何をしにここに来たんだっけ?」と忘れることがあります。そんな時、ふと「もしかして私も歳とった?」と思ってしまうこともあります。でも、そうした経験があるからこそ、認知症の方の戸惑いや不安に少し寄り添えるようになった気がします。
大切なのは、「正しく説明すること」よりも「その人の気持ちを大切にすること」です。「ご飯は食べたの?」と何度も聞かれても、その時の本人にとっては本当に食べたかどうか、あるいは忘れてしまったのかもしれないと不安なのです。だから「さっき食べましたよ」とだけ答えるのではなく、「ご心配なんですね」と寄り添うことが安心につながります。考えてみると、自分の記憶が全て正しくて他の人が間違っていると決めつけるようになれば、それは認知の柔軟性が損なわれていることなので、認知症の症状の一つとして注意してみていくことが必要になって来ます。
認知症は誰にでも起こり得るものです。自分も家族も、将来はその一歩を踏み出すかもしれません。だからこそ、みんなで支え合うことが大切だと思います。
もし、ご家族の中で「最近物忘れが増えたかも」「どう接したらいいのかわからない」と思うことがあれば、一人で抱え込まず、ぜひ施設にご相談ください。スタッフが一緒に考え、専門の医療機関を紹介して、日々の生活を少しでも安心して過ごせるようにお手伝いします。
九月の認知症月間。
認知症を拒否するのではなく、「わかる」「わからない」が混在するからわかりにくい現実を知り、その人の気持ちを尊重しながら、地域全体で支え合う機会にしていただけたら嬉しいです。
